企業型確定拠出年金(企業型DC)等 | 中小企業の退職金制度について考える
はじめに
中小企業の退職金制度について考えていくシリーズの第4回です。今回は、企業型確定拠出年金(DC)を中心に解説していきます。また、企業型確定給付年金(DB)と個人型確定拠出年金(iDeCo)についても、補足的に説明していきます。
企業型確定拠出年金(DC)とは
「確定拠出年金」は、拠出された(払い込まれた)掛金とその運用益との合計額を基に、将来の給付額が決定する年金制度です。つまり、掛金を投資信託などに投資して、将来受け取る年金を増やすことができる(かもしれないし、減らしてしまうかもしれない)制度です。英語では「Defined Contribution Plan」となりますので、頭文字を取って「DC」と略されます。
加入できる企業
制度が始まったころは大企業向けとされていましたが、近年では中小企業での導入も増えているようです。厚生年金に加入している人が一人でもいれば、加入できる可能性があります。ただし、第2回の記事で紹介した中退共等に比べると加入の手続きは複雑であり、地方厚生局から企業型年金規約の承認を受ける必要があります。
加入させる従業員
厚生年金の被保険者が対象となります。ですので、中退共とは異なり短時間労働者は原則加入できません。これに対して、社長を含めた会社の役員等は対象となります。
掛金
(1)拠出限度額
確定給付年金(厚生年金基金・企業型DB等)を実施していない場合は、月額55,000円が上限です。拠出方法にはいくつかのパターンがありますが、中小企業の多くが採用しているとされる「選択制」の場合、実質的に給料の一部を拠出することになります。ですから、従業員が生活費や将来の年金額を考慮したうえで、拠出額を決めていくことになるでしょう。
【参考】確定拠出年金の拠出限度額(厚生労働省)
なお、拠出額の下限は3,000円です。選択制の場合、従業員は「拠出しない」という選択をすることもできますが、一旦、拠出を始めてしまうと原則として月3,000円以上の拠出を続けなければなりません。
(2)拠出者
事業主が拠出する仕組みですが、先述のとおり、実質的には給料の一部を拠出していくことになります。もっとも、既存の給与に上乗せして支給することができないわけではありません。
(3)運用
運用管理機関(金融機関等)が選定・提示する運用商品の中から、従業員が随時選択していきます。大きく分けると「元本確定型(保険商品や預貯金)」と「価格変動型(投資信託)」に分かれます。元本確定型は運用による増額はあまり期待できませんが、元本割れのリスクは避けられます。これに対して価格変動型は、将来受け取る年金を大きく増やせる可能性があるものの、逆に減らしてしまう可能性も残ります。
なお、個別の株式への投資は対象になっていません。
(4)離職・転職時の持ち運び(ポータビリティ)
転職先が企業型確定拠出年金や確定給付年金、またはiDeCoに加入している場合、それまで積み立てていた拠出金を移管できる可能性があります。転職先に該当する制度がない場合は、通算企業年金に移管することになります。いずれの手続きも取らずに6か月が過ぎた場合は、国民年金基金連合会に自動移換され、「資産の運用はされないが管理手数料はかかる」という状態になってしまいます。
給付
老齢給付金として、60歳から75歳までの間に受給開始となりますが、加入期間が短いと60歳からは受け取れない可能性もあります。年金制度ですので、5年から20年の有期で受け取っていくのが原則ですが、規約によって一時金にすることも可能です。また、終身年金にすることもできます。
老齢給付金の他に、障害給付金と死亡一時金もあります。また、拠出金が少ない場合などは、脱退一時金として60歳未満でも資産を引き出せる可能性があります。
メリット・デメリット
企業型DCのメリットとデメリットも確認しておきましょう。
(1)事業主にとってのメリットとデメリット
<メリット>
・役員も加入できる
・掛金は損金に算入できる
・社会保険料の削減につながる
<デメリット>
・費用(導入・維持)がかかる
・事務負担が増える
・従業員への投資教育が必要になる
(2)労働者にとってのメリットとデメリット
<メリット>
・税金面での優遇(掛金・運用益は非課税、受給時も軽減)
・社会保険料の削減につながる
・老後の資産が増える可能性 (運用実績による)
<デメリット>
・老後の資産が減る可能性(運用実績による)
・雇用保険や厚生年金保険にかかる受給額が減る
・60歳までは引き出すことができない
・運用商品の選択肢は限られる(一般的な投資に比べて)
デメリットの2点目について、少し補足しておきます。
企業型DCに加入して掛金を拠出することによって、(完全にイコールではありませんが)掛金の分だけ手取りの給与が減ることになります。その結果、雇用保険の保険料は減りますし、社会保険(健康保険・厚生年金)の標準報酬月額の等級が下がれば社会保険料も減るわけです。ただし、保険料が下がることは良いことばかりとは限りません。保険料の掛金が減るのですから、いざというときに受給できる金額も減ってしまうのです。
掛金によって受給額が変わるものとして、代表的なものを挙げておきます(他にもあります)。
<雇用保険>
・育児休業給付
・基本手当(いわゆる失業保険)
・介護休業給付
<健康保険>
・傷病手当金
・出産手当金
<厚生年金>
・老齢厚生年金
・障害年金
・遺族年金
もちろん、受給額を上回るだけの運用実績を出すことができればよいのですが、なかなかハイリスクといえるのではないでしょうか。
企業型確定給付年金(DB)とは
「確定給付年金」は、拠出金の運用実績にかかわらず、あらかじめ将来の給付額が決まっている年金制度です。英語では「Defined Benefit Plan」ですので、頭文字を取って「DB」と略されます。
運用実績が悪いと会社が補填しなければならず、事務負担も大きいため中小企業にはあまり向かない制度といえるのではないでしょうか。
個人型確定拠出年金(iDeCo)とは
名前のとおり、従業員個人が拠出金を積み立てていく年金制度です。英語の「individual-type Defined Contribution pension plan」を略して「iDeCo」という愛称になりました。
会社として制度を導入して、拠出金を事業主が払い込む方法も選択できますが、扱いとしては従業員が受け取る給与から「天引き」して支払っていることになります。
自営業者や専業主婦(夫)なども加入できる制度であり、「会社が用意する退職金」というより、「個人で準備する老後の資産」といったイメージが強いのではないでしょうか。
おわりに
今回は企業型確定拠出年金(DC)を中心に見てきました。ある程度の規模でないと活用は難しい制度ですが、中小企業への導入も進んできているようですので、今後もだんだんハードルが下がってくるかもしれません。
とはいえ、本文でも述べたとおり加入手続はそれなりに複雑ですので、実際に導入を検討している方は、金融機関や保険会社等の支援を受けながら導入を進めていくことになるかと思われます。