助成金・補助金の申請時における代表的な「落とし穴」について

はじめに

オフィス・プレアデスでは、助成金申請の相談、支援、代行などもおこなっています。助成金には国、都道府県、市区町村、公的機関などが管轄する様々なものがあり、分野としても設備投資や人材に関するものなど多岐にわたります。
当社では、基本的に顧問契約のある企業様についてのみ支援をしているので、対応実績のある助成金の種類は決して多くはないものの、支援するとなれば、事業計画の初期から支給後の事業の推移まで関わることが大半です。
助成金を活用することで、企業の自力だけでは難しい設備投資ができたり、少ないコストで新事業や人材採用などができたりするメリットがある一方、よく考えて活用しないと手間ばかり増えて返って負担が増えたり、思うような方向に進まなかったりすることもあり得ます。
今回は、助成金の落とし穴(ちょっと大げさ)について書いてみます。補助金にも当てはまる内容が多いのですが、今回は社労士事務所として、用語は原則「助成金」で統一して説明していきます(毎回「助成金・補助金」と書くと読みづらそうですし)。

落とし穴1:申請準備と審査期間が予想以上にかかる

申請準備と審査期間が長くかかることで、様々な障害が生ずることがあり得ます。
審査期間(申請受付から交付決定まで)は申請手引きに記載されていることが多いのですが、申請された件数が多くなると遅れるのが通例です。計画段階で、審査担当に直接確認し「現在、申請受付から交付決定、その後の支給まで実際にどのぐらいの期間かかっているか」必ず聞くべきです。
なお、審査期間が延びてしまうと、次のようなリスクが高くなります。

融資審査やり直しのリスク

特に設備投資系の助成金の場合は要注意です。助成金の支給は基本的に後払いなので、設備投資資金は企業側でまず調達する必要があります。自己資金で賄えるならともかく、多くのケースでは金融機関から融資を受けることになるでしょう。設備投資の支払時期(実際に融資を実行するとき)が当初予定していた時期より大幅に遅れてしまうと、最初に審査した時点とは財務状況が変わっている可能性もあるため、融資審査のやり直しといったこともあり得ます。

物価高騰のリスク

また、審査期間の間に、材料や部品・機械などの価格が上がり当初の見積り金額では計画していた設備投資ができないといった事態も起こり得ます。実際、とある補助金で当初3ヵ月程度とされていた審査期間が実際には6ヵ月かかったため、購入予定であった機器メーカー側の新年度価格改定があり、予算オーバーとなったこともありました。
現在のような物価上昇局面では特に注意を要するところです。

商機を逃すリスク

もう一つ、企業経営にとって時間(期間)の経過は売上・利益とトレードオフの関係となることはままあります。助成金を活用して1年後に100の投資をするよりも、今すぐにできる50の投資をして事業を早く進めたほうが、より多くの利益を生み出せる場合もあるでしょう。
そのあたりも考慮すべきだと思います。

落とし穴2:見積りが大変すぎる

2社以上からの見積書が必要

設備投資系の助成金の場合、原則として相見積り(2社以上から見積書を取得すること)が必要となります。そのうえで、原則として低い見積額を提示した業者から購入しなければなりません。助成金の原資は税金ですので、無駄に使うことは許されず、最小限の費用に対して助成しなくてはならないからです。
一方、中小企業では、購入する機械や設備について、都度、相見積りや入札をして業者選定をおこなっているケースはあまり多くはありません。どちらかといえば、信頼できる業者さんと長くおつきあいして、購入後のメンテナンスや保証をしっかりしてほしいとか、自社の事情を良く知っている業者さんにお任せしたいとか、価格以外の部分も重要視している企業が多いように思います。
ですが、助成金申請の場面においては、このような事情は考慮してもらえないのです。要件に従って、粛々と2社以上からの見積書をそろえていかなくてはなりません。
しかし、普段から取引のないメーカーや商社、あるいは工事業者さんにお願いして、一から自社の計画や状況を理解してもらい、見積書を取り付けるのはなかなか大変なことです。

「相見積り」の要件を満たすことも必要

また、見積書自体も要注意で、細かく指定して取り付けないと、審査担当者から「相見積りになっていない」との理由で却下されてしまうこともあります。例えば、各見積りで部品の数量が違うとか、各項目の分け方が違うとか、細かな部分の違いによって、「同等品とはいえない」と指摘を受けることがあるのです。
そうなると、自社側でよくよく精査して内訳・仕様・見積条件をつくり、各社に見積り依頼を出すといった対応が必要となるケースもあるでしょう。

補助対象経費を押さえなければならない

さらに、見積書のつくり方だけの問題ではないものの、補助対象経費にも十分に注意が要ります。補助対象となる設備機器であっても、本体とオペレーションソフトは補助対象経費となっても、オペレーションソフトをインストールするPCや付属品は補助対象外とか、既存設備の撤去費は補助対象外といったことはままあります。
見積全額に対して補助されるとは限らないため資金計画には十分に注意が要ります。
また、本来補助対象経費であるものが、見積書の表記が異なっていたため補助対象経費として認められないということもあります。実際、とある工事費の見積書で法定福利費として計上されていた額が補助対象外とされてしまったケースもありました。取付工事費自体は補助対象なので、取付工事費に含まれる作業員の法定福利費も当然問題ないはずなのですが、法定福利費を別建て計上する見積形式*(建設業の方は良くご存じと思います)であったため、審査担当者から「補助対象経費の対象とはならない」とダメ出しをされてしまったのです。
かといって、上記のようなダメ出しを避けるために「**設備一式」などの見積書を取った場合は、「詳細不明」ということで却下される可能性が高いので注意してください。

*「法定福利費を別建て計上する見積形式」については、2025年4月の記事をご参照ください。
令和6年建設業法改正のポイント(担い手確保に向けた改正を中心に)
(「4.2.令和7年12月までに施行」の部分で触れています。)

落とし穴3:政策との整合性に加えて細かい要件をすべて満たすことが難しい

助成金には、大きく分けると次の2つのパターンがあります。

  • 一定の要件を満たせば支給されるもの
  • 一定の要件を満たしたうえで事業計画等の優劣により採択・非採択が決まり支給されるもの

後者については、必ず採択されるとは限らないと分かっているので、企業側もダメならダメで別の方法をとるなり、予めダメだった場合を想定するなりして、計画を立てています。経済産業省系の補助金(ものづくり補助金など)は、だいたいこちらのパターンです。
問題なのは前者の方です。こちらは、厚生労働省系の助成金に多いパターンです。
厚生労働省や労働局のパンフレットを見て、要件に合致していることを確認して、苦労して申請書をつくり申請したものの、思わぬ不支給要件に引っかかってダメになってしまうことがあり得ます。そうなると、かけた時間や労力が無駄になるだけでなく、事業計画自体の中止を余儀なくされる可能性もあります。既にかけたコストは回収できない場合がほとんどでしょうから、企業にとって大きな損害となります。
具体的に実例をあげることは控えますが、そもそも助成金は国などの政策的意図に基づいて支給されるものですので、その政策的意図にきっちり沿ったものでないとダメなのです。仮に一つでも政策的意図に反する部分があったら、不支給となる可能性が一気に高くなります。また、パンフレットには載っていない細かい要件もありますので、パンフレットだけ読んで大まかな要件をそろえて申請してみても、うまくいく可能性は低いです。
本来なら避けられるはずの不支給を避けるためには、申請手引きや支給要領をきっちり読む必要があります。小さな字で書いてある部分も疎かにはできません。特に、(注)の部分を読み飛ばさないことが大切です。広報用のチラシだけざっと眺めて申請書をつくり始めるのは、もってのほかと考えてください。
さらに言えば、先に述べたとおり、助成金は国などの政策を実現させるために支給される要素が強いのですから、企業の有り様や計画している事業が、国が想定した形にぴったり合っていないとダメということです。
あるがままの状態で形にぴったりはまるなら良いです。しかし、多くはそうではありません。形からはみ出ている部分は削り、形に足らない部分は継ぎ足さないといけません。その状態が、企業の目指すものと概ね一致するなら少々の手間やコストをかけてでも取り組むべきでしょう。そのための助成金です。
一方、そうでないなら無理に助成金の活用を考えなくても良いはずです。助成金は企業目的を達成するための手段に過ぎず、助成金の獲得自体が目的ではないからです。

落とし穴4:支給後の義務もある

賃上げが条件となっている助成金の中には、数年にわたる賃上げを実施しないと全額を受給できないようなものもあります。
また、設備系の補助金については、補助対象となった設備が適切に活用されているかどうかを、一定期間にわたって報告しなければならないものもあります。もちろん、「設備のおかげで生産性が向上しました」といった単純な報告ではなく、実際に計画通りの使い方をしているのかどうかなど、わりと細かく報告しなければなりません。近年では賃上げが要件になっているものもありますので、その場合は賃金台帳の提出なども求められます。
そして、補助対象となった設備については、しばらくの間(処分制限期間)は譲渡等に制限がかかります。
このように、お金を受け取って安心した後にも、様々な義務を負うことになるのです。

おわりに

テーマが「落とし穴」でしたので、どちらかといえば助成金のネガティブな部分ばかり記してきましたが、誤解のないように補足しますと、助成金自体を決して否定的に云うものではありません。
せっかく国などが政策実現のために企業を支援しようとしてくれているのですから、「よくよく選んで自社の状況に見合うものがあれば活用していきましょう」というのが当社の立場です。顧問先様の状況を見て、有効に活用できそうな場合に絞って申請していることもあって、実際には申請して良かったなと思えたことの方が圧倒的に多いです。

(助成金に関する解説は、次の記事もご参照ください)
最低賃金引上げの影響を受ける中小企業に対する国の支援策(業務改善支援金を中心に)

一方、取引先の金融機関や保険会社、あるいは助成金コンサルタントの提案を聞いたものの、実際に申請できるかどうか検討してみると、そもそも要件を全く満たしていなかったり、支給額と申請コストが見合わなくてガッカリしたりというケースも、それなりに見受けられます。
10年ほど前からでしょうか、助成金は「返さなくてもよいお金」「もらわなければ損」というイメージが強くなっているように感じますので、ちょっと警鐘ということでご理解ください。