自社制度(自社積立)による退職金 | 中小企業の退職金制度について考える

はじめに

中小企業の退職金制度について考えるシリーズの第3回です。今回は自社制度(自社積立方式)について解説していきます。自社積立による退職金の特徴について説明したうえで、中小企業にとっての選択肢となる4つの代表的な計算パターンについて確認していきます。また、生命保険を活用した積立てについても紹介しています。

自社制度(自社積立)による退職金の特徴

自社制度による退職金とは、退職金の原資を自社で用意する方式です。従業員は定年前に退職することもあり得ますから、不測の退職にも備えて一定の金額を積み立てておくのが一般的です。

自社制度の最大の特徴は、設計の自由度が高い点ではないでしょうか。前回の記事で紹介した「中退共」や、次回の記事で紹介予定の「確定拠出年金(DC)」といった外部の制度を利用する場合、どうしても提供されているサービスの枠に合わせて退職金制度を設計する必要があります。これに対して自社制度の場合は、会社の都合に合わせて自由に設計できるのです。もっとも、労働者の保護も考えなければなりませんので、経営者が思い描くとおりに設計できるとは限りません。

また、従業員の退職に備えて会社の運転資金とは別に資金を用意しておく必要がありますので、自社制度だけである程度の退職金を確保しようとすると、資金繰りが厳しくなっていく可能性もあります。

そのため、中退共などをベースとしつつ、上乗せ部分として自社制度を活用する方法をお薦めする場合もあります。前回の記事でも触れましたが、「懲戒解雇等の場合でも不支給にはできない」点を中退共のデメリットと考える経営者も一定数いらっしゃいます。そこで、自社制度の退職金については退職理由による減額幅を大きくするなどして、最後まで貢献してくれた従業員との差を大きくするわけです。

中小企業における自社制度退職金の代表パターン

次に、自社制度による退職金の設定方法について、代表的な4つのパターンを見ていきます。いずれの方式を選択するとしても、最後に退職事由による係数(自己都合の場合は0.6倍等)を掛けることによって、定年まで貢献してくれた人とそうでない人に差を付けることができます。

基本給連動方式

昔からある計算方法です。計算の方法としてはシンプルで運用しやすいのですが、勤続年数に比例して基本給は上がっていくのが通常ですから、従業員の年齢(勤続年数)構成によっては、会社の負担が大きくなりすぎてしまう可能性があります。

そこで、近年では基本給(給与)と退職金を切り離して考える設定方法を選択する企業も増えてきました。

定額方式

給与(基本給)に関係なく、単純に勤続年数に応じて定額の退職金を支給する方式です。ベースアップなどによって基本給が上がっても影響を受けません。ただし、在職中の貢献度による差をつけることは難しいです。

別テーブル方式

基本給とは別にテーブル(表)を作ることによって、基本給の上昇に影響を受けない退職金制度を設計することができます。例えば、役職と勤続年数を掛けることによって、「重い責任を持って働いてくれた人には退職金も多めに」などの運用ができるわけです。

ただし、この例の場合は、退職時の役職だけしか反映されないため、極端な話、「部長を最後の1年だけ担当した人」と「部長を10年担当した後に課長として定年を迎えた人」の場合、前者のほうが退職金が高くなってしまいます。テーブルを複雑化することによって担当期間などを反映できないこともないのですが、条件を追加していくのであれば、次に紹介するポイント制方式のほうが運用しやすいかもしれません。

ポイント制方式

従業員に対して一定期間ごとに、その人の状況に応じたポイントを与えていき、退職時に貯まっているポイントに特定の係数をかけて退職金を計算する方式です。役職はもちろん、社内資格や人事考課の結果などもポイントとして設定することができます。これによって、「どのような状況でどれくらいの期間、会社に貢献してくれたのか」を退職金に反映することができるのです。

成果主義の性格が強い方式ですが、制度の設計と運用が複雑になるので、小規模な事業者には向かないかもしれません。

生命保険の活用

最後に、生命保険の活用による支払原資の確保について確認してみます。

かつては生命保険の利率が高かったこともあり、退職金の自社積立に生命保険を活用する中小企業も多かったように思われます。しかし、過去に比べて利率が下がり、節税メリットも薄れてきたため、生命保険を活用する企業は減少傾向にあるのではないでしょうか。

もちろん、生命保険そのものの商品価値を無視することはできません。万が一、病気や不慮の事故等で従業員の方が亡くなってしまった場合に、会社から遺族の方にまとまったお金を支払うことができるのは、やはり大きなメリットといえるでしょう。

ですので、死亡退職金も含めて制度を設計するのであれば、生命保険の活用も有効だと考えられます。

おわりに

今回は自社制度による退職金の設計について確認しました。いずれの方式を選択するにせよ、中小企業が自社積立だけでまとまったお金を用意するのは簡単ではないでしょう。

ですから、中退共である程度の老後資産の原資を確保しつつ、会社にとって無理のない範囲で従業員の貢献に応える慰労金や報奨金的なものも用意しておくようなやり方も、一つの答えではないかと考えております。

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