最低賃金引上げの影響を受ける中小企業に対する国の支援策

はじめに

前回の記事では、最低賃金について説明しました。東京都では、2025年10月3日(金)より、地域別最低賃金が時給1,226円になります。現状の1,163円から63円の増額ですので、月に160時間勤務だと月に約1万円(10,080円)増加する計算です。

経営者から見れば負担増に違いないでしょう。しかし、最低賃金引上げに苦しむ中小企業に対して、国が直接支援する仕組みはありません(おそらく)。ただし、最低賃金引上げに「関する支援策」は存在します。

2025年6月13日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」に基づいて、「中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5か年計画」が策定されました。計画の中では、「サービス業を中心とした中小企業・小規模事業者の生産性向上」がうたわれています。

この流れを受けて、政府から2025年9月5日に、「最低賃金の引上げに係る支援策について」が発表されました。具体的には、中小企業・小規模事業者の生産性向上に関する助成金・補助金について、対象の拡大や要件の緩和といった、支援策を拡充する内容となっています。

今回の記事では、拡充の対象となった助成金・補助金の中から「業務改善助成金」について解説していきます。その他の補助金(ものづくり補助金・IT導入補助金・中小企業省力化投資補助金)については、内閣官房のウェブサイトをご確認ください。

最低賃金の引上げに係る支援策について(内閣官房)

いつものように、東京都(と神奈川県)の中小企業を前提に話を進めていきます。

業務改善助成金とは

例によって全体像をつかんでいただくのが目的ですので、細かい部分は省略して説明していきます。詳細については、厚生労働省のウェブサイトをご参照ください。

業務改善助成金(厚生労働省)

概要

業務改善助成金は、生産性向上につながる設備を導入して賃上げを実施した場合に、その設備投資にかかった費用の一部が、助成金として後から支給される仕組みです。



対象となるのは、「事業場内最低賃金が改定後の地域別最低賃金未満の中小企業」です。東京都でしたら、職場で最も賃金が低い人の時給が1,226円を下回っている場合に対象となります(事業場単位で判断)。これに対して、職場の中に時給1,226円を下回る人がいない場合、つまり「待遇の良い職場」は、本助成金の対象とはなりません。

なお、「申請事業場に適用される地域別最低賃金改定日の前日まで」に申請する必要がありますので、東京都の場合は2025年10月2日(木)が締切だと考えてください。ちなみに、神奈川県は1日遅れの10月3日(金)が締切です。

助成上限額と助成率

賃金の引上げ額と、賃金を引き上げる労働者の人数によって上限額が変わります。最低ラインである「30円以上引上げ・対象労働者1名」の場合は上限額が30万円ですが、30人未満の事業場は60万円となっています。なお、最大値は「90円以上引上げ・対象労働者10名以上」の600万円(30人未満事業場も同額)です。

助成率は事業場内の最低賃金が1,000円未満かどうかで変わりますが、東京都で時給1,000円未満はあり得ないので、3/4(75%)と考えてください。ちなみに、1,000円未満の場合は助成率4/5(80%)になります。

助成対象経費

生産性向上につながるのであれば、設備投資だけでなく、専門家からの助言や教育訓練にかかる経費も助成対象となります。とはいえ、設備投資を選択する中小企業が大多数だと思われます。デジタル化による時間短縮が今どきな感じですが、機械化による作業時間の短縮といったアナログ的な設備投資でも問題ありません。

具体的な設備等については、厚生労働省が公表している「生産性向上のヒント集」をご参照ください。

生産性向上のヒント集(令和6年3月作成)(PDF直リンク)

最低賃金の引上げに関する支援の拡充

業務改善助成金における2025年9月5日からの変更点は、次の2点です。

対象事業場の拡大

先ほど説明した対象事業場の要件は、「拡大後」のものです。変更前は、「事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内」という要件でした。東京都の場合、職場で最も賃金が低い人の時給が1,163円+50円の1,213円以下でなければいけなかったのです。

今回の拡充策によって、先述のとおり「事業場内最低賃金が改定後の地域別最低賃金(1,226円)未満」となったわけです。微妙ですね。

申請手続きの簡略化

これまでは賃上げ前に「賃上げ計画(賃金引上計画)」と「設備投資計画(事業実施計画)」を提出する必要がありましたが、拡充策によって「賃上げ計画の事前提出を省略可能」とされました。

おわりに

今回は、業務改善助成金の概要を中心に説明してみました。もっとも、この記事をきっかけに本助成金の存在を知って、10月上旬までに導入する設備を決めたうえで書類等を整えて申請まで持っていくのは、なかなか厳しいのではないかと思われます。

そもそも、設備投資ありきの助成金ですので、まずは設備投資が必要かどうかを判断する必要があります。「助成金のために機械を買おう」というのは、本末転倒です。「設備投資によって生産性を向上させ、利益を上げることによって賃上げを実現する」というのが王道といえるでしょう。

以前から導入を検討していた設備があって、事業場内最低賃金等の要件に合致するのであれば、業務改善助成金の活用も有効な手段といえるのではないでしょうか。

2026年の最低賃金引上げに備えて

前回の記事で、「現政権は最低賃金の全国加重平均を2020年代のうちに1,500円まで引き上げることを予定している」と説明しました。首相交代で多少の違いは出てくるかもしれませんが、今後も最低賃金が上昇していくことは間違いないでしょう。

2026年度も業務改善助成金が続くと仮定して、来年の申請に向けたスケジュール(目安)を記載しておきます。

現在〜2026年7月

(1)生産性向上のための計画・設備投資の内容を検討

2026年7月〜8月

(2)投資する設備の見積書等の用意

2026年8月〜9月

(3)最低賃金審議会の議論を踏まえて(報道を見て)賃上げ計画の検討・決定
(4)賃上げ実施と申請

2026年11月?〜

(5)交付決定を受けて設備投資実行

最低賃金が決まってから設備投資を検討してもスケジュール的に厳しいものがありますので、(1)から(3)を早めに進めておくとよいでしょう。

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