【2025年6月1日改正】職場における熱中症対策の強化が義務付けられました
はじめに
2025年(令和7年)6月1日に労働安全衛生規則が改正されました。熱中症の重症化を防ぐために、労働者等に熱中症の兆候が現れた段階で報告できる体制を整備し、報告に応じて適切に対応できる手順を作成し、この体制と手順を労働者等に周知することが事業者に義務付けられました。今回はこの改正点を中心に、熱中症対策について解説していきます。
なお、今回の記事は、主に次のWEBサイトを参考にしています。
学ぼう! 備えよう! 職場の仲間を守ろう! 職場における熱中症予防情報(厚生労働省)
法令改正の背景
近年、熱中症による労働災害が増えており、死亡災害は3年連続(2022年から2024年)で30名以上となってしまいました。そして、2020年から2023年までの死亡災害103件を分析した結果、100件において「初期症状の放置・対応の遅れ」が確認されています。
このような状況を受けて、死亡に至らせない(重篤化させない)ための、適切な対策が必要となったのです。
改正によって生じる義務
労働安全衛生規則(厚生労働省令)に、次の条文が新設されました。
労働安全衛生規則
第12条の2(熱中症を生ずるおそれのある作業)【新設】
1 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、当該作業に従事する者が熱中症の自覚症状を有する場合又は当該作業に従事する者に熱中症が生じた疑いがあることを当該作業に従事する他の者が発見した場合にその旨の報告をさせる体制を整備し、当該作業に従事する者に対し、当該体制を周知させなければならない。
2 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、作業場ごとに、当該作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせることその他熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容及びその実施に関する手順を定め、当該作業に従事する者に対し、当該措置の内容及びその実施に関する手順を周知させなければならない。
まずは、ポイントを整理してみます。
誰が:事業者が
いつ:熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときに
何を:あらかじめ次の措置を講じなければならない
A:労働者に熱中症の兆候が現れた際に報告できる体制の整備
B:熱中症の症状悪化(重篤化)を防止するための手順の作成
C:A(体制)とB(手順)の労働者等への周知
つぎに、各ポイントについて解説を加えてみます。
「事業者が、熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときに」
具体的には、対象となる作業が次のように定められています。
・WBGT28度以上または気温31度以上の環境下で
・連続1時間以上または1日4時間を超えて実施が見込まれる作業
とくに業種は限定されていないので、建設業や製造業以外の業種であっても、上記の環境で作業を行う場合は対策が必要になります。
労働者に熱中症の兆候が現れた際に報告できる体制の整備
熱中症の自覚症状が出てきた作業者本人や、熱中症のおそれのある作業者を見つけた者が、担当者に報告するための体制を整備しなければなりません。
報告を受ける部署や担当者を決めておくことはもちろん、職場巡視等の方法により熱中症の症状のある作業者を積極的に把握するよう努めることが推奨されています。
熱中症の症状悪化(重篤化)を防止するための手順の作成
上記の報告等によって熱中症のおそれがある労働者を把握した場合に迅速かつ的確な判断が可能となるよう、あらかじめ手順を作成しなければなりません。
手順には、次の点を含める必要があります。
・事業場における緊急連絡網、緊急搬送先(近隣の医療機関など)の連絡先および所在地等
・熱中症による重篤化を防止するために必要な措置の実施方法
また、重篤化の防止措置としては、次のようなものが挙げられています。
・作業離脱(日陰で休ませる)
・身体冷却(服を脱がせて水をかける/冷たいものを飲ませる)
・医療機関への搬送等
なお、厚生労働省のパンフレット等には、熱中症のおそれのある者に対する処置の例として、フロー図が掲載されています。
出所:職場における熱中症対策の強化について(厚生労働省)
体制と手順の労働者等への周知
報告先や重篤化防止の方法を作業者が見やすい場所に掲示したり、朝礼をはじめとしたミーティングで伝えたりすることが求められています。自社で雇用している労働者はもちろん、請負契約や業務委託契約を結んだ事業者等にも周知する必要があります。
改正前からの義務
労働安全衛生法の第22条には、次の定めがあります。
労働安全衛生法
第22条 事業者は、次の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
一 略
二 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害
三 以下略
なお、違反した場合は6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
また、労働契約法の第5条では、労働者の安全への配慮が義務付けられていますので、適切な対策をしていない状況で熱中症による労働災害が発生した場合には、労働者(またはその遺族)から損害賠償請求を受ける可能性もあります。
そして、労働安全衛生法には雇入れ時等の安全衛生教育が義務付けられており、その内容には「事故時等における応急措置及び退避に関すること」が含まれています。ですから、作業中に熱中症の兆候が現れたときの対応方法等について教育することも、改正前からの義務だったといえるでしょう。
法令上の義務ではないが推奨されること
対象となる作業には「WBGT28度以上」といった基準がありますが、たとえ基準値以下であっても、緊急時の連絡先等を定めておくことは重要だと考えられます。また、身体冷却など、いざというときの対処方法についても、あらかじめ検討しておくことが望ましいでしょう。
そして、熱中症が身近な存在であり、早めに対応しないと危険である(早めに対応すれば重篤化は防げる)ことを、職場のみなさんで共有することも大切です。
おわりに
今回は、法令改正によって熱中症対策の強化が義務付けられたことを中心に解説いたしました。法令上の義務は「体制整備」「手順作成」「関係者への周知」に限られています。法令順守はもちろん重要ですが、働く人たち一人一人が熱中症の防止を心がけ、日ごろから体調管理にも気をつけていただけるようになることが、労働災害の防止につながっていくと考えています。