フリーランスとの事業者間取引の適正化に関する法律が施行予定です

2024年の秋ごろを目安に*2024年11月1日から、いわゆるフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行される予定です。

現時点(2024年1月)では、政省令の内容までは明らかになっていません。今回の記事では概要を説明していきます。主に参照したのは次のサイトです。

フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ(厚生労働省WEBサイト)

フリーランス新法成立の背景

インターネット環境の普及等によって働き方の多様化が促進され、組織に属さないで一人で仕事を請け負う「ギグワーカー」や「クラウドワーカー」と呼ばれる人たちが増加しています。ギグワーカー等を含めた、いわゆる「フリーランス」としての働き方は、組織に属さず文字通り「自由に」働ける点が魅力的である反面、取引相手に対する交渉力は弱くなりがちです。このため、不公正な取引を強いられるなど、フリーランスに関するトラブルが増加していました。

従来より、事業者間の取引適正化に関する法律として、「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」や「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)」が整備されてはいます。ですが、働き方が多様化したフリーランスの取引をカバーしきれていないのが実情でした。

これを受けて、2020年7月の「成長戦略実行計画」閣議決定を皮切りに、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」が整備されていったのです。

【参考】主な経緯

2020.07 「成長戦略実行計画」閣議決定
・政府として一体的に、フリーランスの保護ルールの整備
(「実効性のあるガイドラインの策定」「立法的対応の検討」等)を行う
2020.11 厚労省・中企庁・公取委、フリーランス・トラブル110番を設置
2021.03 「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を策定
2021.06 「成長戦略実行計画」閣議決定
・フリーランスとして安心して働ける環境を整備するため、事業者と
フリーランスの取引について、書面での契約のルール化など、法制面の措置を検討
2021.11 「緊急提言~未来を切り拓く「新しい資本主義」とその起動に向けて~」
・フリーランス保護のための新法を早期に国会に提出する
2022.06 「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」閣議決定
・取引適正化のための法制度について検討し、早期に国会に提出する
2022.09 「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」に関する意見募集
2023.02 「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」閣議決定、国会提出
2023.04 同法案の国会審議 可決 成立
2023.05 同法案の公布(令和5年法律第25号)

 
出所:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料」内閣官房新しい資本主義実現本部事務局・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省

用語の確認

この法律の中では、いわゆる「フリーランス」は、「特定受託事業者」と呼ばれています。他にも似たような用語が出てきますので、まずは用語の定義を確認しておきましょう。

A.特定受託事業者

いわゆる「フリーランス」と呼ばれる人たちのことです。ただし、契約の主体となる事業者自体を指しますので、個人だけでなく法人の場合もあります。このため、1号と2号の2種類が設定されています。

1号:個人であって、従業員を使用しないもの
2号:法人であって、代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの

ようするに、1人で事業を行っている個人事業主、または代表以外に役職員のいない法人(会社等)です。「従業員」の正確な定義は政令で定められる予定ですが、現時点では雇用保険の被保険者が目安とされています。このため、同居の親族が一緒に働いていても、従業員には該当しない予定です。

B.特定受託業務従事者

Aが事業者自体を指していたのに対して、Bは「その人」を指しています。つまり、個人事業主本人や社長本人です。これは、取引の適正化を図ると同時に、就業者の保護も想定されているからだと考えられます。

C.業務委託事業者

フリーランス(特定受託事業者)に対して業務委託する事業者です。フリーランス甲がフリーランス乙に業務委託する場合、フリーランス甲は業務委託事業者になります。もちろん、会社組織等がフリーランスに業務委託する場合も、業務委託事業者に該当します。

D.特定業務委託事業者

Cの中で、従業員や他の役員がいるもののことです。つまり、Cであってフリーランスではない人たちです。こう書くとややこしいのですが、シンプルに表現するなら、「個人に業務委託する組織」でしょうか。むしろフリーランスに業務委託するのはDが主流だと考えられます。

フリーランス新法のポイント

法律は次の5章プラス附則で構成されています。詳細は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(e-Gov法令検索)」をご参照ください。

概要

第1章 総則(第1条・第2条)
第2章 特定受託事業者に係る取引の適正化(第3条〜第11条)
第3章 特定受託業務従事者の就業環境の整備(第12条〜第20条)
第4章 雑則(第21条〜第23条)
第5章 罰則(第24条〜第26条)
附則

実務上は、第2章「取引の適正化」と第3章「就業環境の整備」がポイントになると考えられます。ちなみに、第1条は「(法の)目的」、第2条は「(用語の)定義」です。

第2章は取引内容に着目されているので、Aの特定受託事業者が対象となります。これに対して第3章は就業環境(働く人の環境)に着目しているため、Bの特定受託業務従事者が対象です。わかりやすさを優先するならば、第2章は「交渉力の弱い事業者を保護する規定」であり、第3章は「労働者に近い人たちを保護する規定」と表現できるのではないでしょうか。

第2章 特定受託事業者に係る取引の適正化

フリーランスとの取引の適正化は、次の3つの条文によって規定されています。

第3条(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)

フリーランスに業務委託する際に、給付の内容(業務内容)や報酬の額、そして支払期日等を書面等によって明示しなければなりません。ギグワーカー等を想定しているからか、電磁的方法(メール等)が前提となっており、「書面の交付を求められたときは、遅滞なく(略)これを交付しなければならない」とされています。

ちなみに、第3条の契約内容明示が義務付けられているのは、Cの業務委託事業者です。つまり、フリーランスがフリーランスに業務委託する場合においても、契約内容の明示が求められているのです。

第4条(報酬の支払期日等)

報酬の支払期日は、給付を受領した日(≒業務が完了した日)から起算して60日の期間内、かつ、できる限り短い期間内に定めなければなりません。ですから、「末締め、翌々月末払い」の場合はもちろんですが、「末締め、翌月末払い」であっても注意が必要です。かなり限定されたパターンではあるものの、7月1日に受領した場合、支払日である8月31日は61日後になってしまうからです(12月1日も同様)。

第5条(特定業務委託事業者の遵守事項)

一定期間にわたってフリーランスと取引している事業者に対して、次の7つの行為を禁止しています。

(1)特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の受領を拒むこと。
(2)特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること。
(3)特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
(4)特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること。
(5)特定受託事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。
(6)自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
(7)特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後(略)に給付をやり直させること。

各項目をシンプルに表現するとしたら、次のような感じでしょうか。
(1)受領拒否
(2)報酬減額
(3)一方的な返品
(4)買いたたき
(5)不合理な材料指定等
(6)協力金等の徴収
(7)無料での追加注文

この(1)から(7)に掲げられている行為を「してはならない」というのが、第5条の「順守事項」です。ようするに、「禁止事項」といえるでしょう。

ここまでが、第2章「取引の適正化」について定められたポイントです。

第3章 特定受託業務従事者の就業環境の整備

フリーランスとして働く人たちの環境整備は、次の4つの条文によって規定されています。

第12条(募集情報の的確な表示)

広告等によって受託者を募集する際に、「虚偽の表示または誤解を生じさせる表示」が禁じられています。例えば、実際の報酬額よりも高い額を表示して募集するような事例です。

この条文は、「職業安定法 第5条の4(求人等に関する情報の的確な表示)」を基にしているようです。ですので、条文は「新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法」となっていますが、省令の整備によってインターネットを介した募集、具体的にはクラウドワーカーとのマッチングサイトにおける募集なども含まれるようになると予想されます。

【参考】職業安定法施行規則

第4条の3(法第5条の4に関する事項)
1 法第5条の4第1項の厚生労働省令で定める方法は、(略)自動公衆送信装置その他電子計算機と電気通信回線を接続してする方法その他これらに類する方法とする。

第13条(妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮)

フリーランスとしての仕事と育児や介護の両立が実現するよう、委託者側に配慮を求めています。当然ですが、使用する労働者と同じ条件にすることまでは求められていません。

第14条(業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等)

職場におけるハラスメント対策を基に、フリーランスの就業環境が害されることがないような措置をとらなければなりません。すでにセクハラ・パワハラ・マタハラについては、中小企業においても職場におけるハラスメント防止の体制整備が義務付けられています。ですので、その対象をフリーランスに広げることで対応できるのではないでしょうか。

第16条(解除等の予告)

継続的な業務委託の中途解除や不更新に際して、30日前までに予告することが義務付けられています。労働者に対する解雇予告に近いイメージですが、解雇ほど厳しい要件は求められないでしょう。

以上の4つが、第3章「就業環境の整備」について定められたポイントです。

まとめ

くり返しになりますが、実務上は次の7つの条文による規定を守る必要があります。

第3章 取引適正化
① 取引条件の明示(第3条)
② 報酬の支払期日(第4条)
③ 順守事項(禁止事項)(第5条)
第4章 就業環境整備
④ 募集情報の的確表示(第12条)
⑤ 育児介護等への配慮(第13条)
⑥ ハラスメント対策(第14条)
⑦ 解除等の予告(第16条)

ただし、フリーランスとのすべての取引において、7つの項目を守らなければならないわけではありません。業務委託する側(発注者)の状況によって、大きく3つのパターンに分かれています。

(1)フリーランスを含む業務委託事業者が対象
委託者自身がフリーランスである場合も含めて、①取引条件は明示しなければなりません。これは、対等な関係の取引であっても、口頭の契約(口約束)だけで取引条件が曖昧なままだとトラブルにつながりやすいからでしょう。

(2)特定業務委託事業者が対象
②報酬の支払期日と④募集情報の的確表示、そして⑥ハラスメント対策の適用は、業務委託する側が組織の場合に限られます。組織対個人という、優越的な関係によって生じやすいトラブルの予防を目的としているのではないでしょうか。

(3)一定期間以上の継続的業務委託を行う特定業務委託事業者が対象
③禁止事項と⑤育児介護等への配慮、そして⑦解除等の予告は、「一定期間以上*の継続取引」を行う特定業務委託事業者が対象です。こちらは、取引の長期化によって生じやすいトラブルが想定されているものと考えられます。

*政令で定められる予定
③ 1か月以上
⑤⑦ 6か月以上

以上です。
今の記事で紹介したフリーランス新法は、2024年秋ごろまでに11月1日より施行予定です。施行日が近づいてくると、政省令や告示などによって委託事業者の義務の具体的な内容等も明らかになってくることが予想されます。

新しい情報が出た際には、引き続きブログやSNSなどでご紹介する予定です。

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