東京都社会的責任調達指針にはどのレベルまで対応する必要があるのか

はじめに(工事の定期受付の日程など)

令和7・8年度 東京都競争入札参加資格審査の定期受付について、工事(建設工事等)の日程も次のとおり決まりました。

単体企業等:令和6年11月25日(月)から令和7年1月31日(金)まで
経常JV:令和7年1月20日(月)から令和7年1月31日(金)まで

物品買入れ等と同様、建設工事等においても定期受付の際に、東京都社会的責任調達指針(以下「調達指針」)への対応が必要になります。具体的な対応としては、申請時にチェックリストを提出(システム上で入力)する必要があります。

以前の記事で調達指針の概要については説明しました。今回は、調達指針に関して「よくある質問」について検討していきます。

東京都の公表資料を基に考察

令和6年9月12日に、東京都の調達指針関連サイトに「東京都社会的責任調達指針に関するFAQ(よくある質問)」が掲載されました。

【参考】社会的責任に配慮した調達に係る有識者会議(東京都)

この中から、いくつかピックアップして確認していきます。
(令和6年10月10日版を参照しています)

基本的な仕組み

1.東京都発注の入札案件すべてが対象か(項番1)

Q:指針はいつから適用されますか。
A:令和7年4月以降に公表される財務局契約第一課及び第二課発注の案件から適用を開始します。

まずは財務局発注の案件からスタートするようです。

【参考】財務局契約第一課・第二課発注契約(出所:東京都資料)

開始時点では、比較的大型な案件に限って適用される予定です。東京都も「小規模な事業者が短期間で調達指針に対応するのは難しいだろう」と考えているのではないでしょうか。ただし、調達指針関連サイトには「順次、対象を拡大する予定」との記載もありますので、早めに対応しておいたほうがよいと考えられます。

2.義務的事項に対応できない場合は入札に参加できないのか(項番4)

Q:義務的事項について「取り組んでいない。」を選択するとどうなりますか。
A:義務的事項について「取り組んでいない。」を選択した場合、調達指針が適用された案件にはご参加いただけません。

義務的事項に「取り組んでいない」のチェックが入っていても申請はできますし、他の要件が揃っていれば入札参加資格も得られます。ただし、先述の適用案件については、入札に参加することができません。一方で、調達指針が適用されない案件については、入札にも参加できるものと考えられます。

チェック内容が入札にどの程度影響するか

3.チェックが多いほど入札しやすくなるのか(項番9)

Q:チェックした選択肢やチェックした数によって、入札に有利または不利になるなどの影響はありますか。
A:チェックした選択肢やチェックした数によって、入札に有利または不利になるといったことはありません。

各項目につき複数の選択肢が用意されていますが、「取り組んでいない」以外の選択肢については、どれを選んでも差はつかないようです。また、複数の選択肢にチェックを入れたからといって加点されるようなこともないようです。当然といえば当然ですが、実態に合わせてチェックを入れていくのが良いと考えられます。

4.推奨事項も積極的にチェックしたほうがよいか(項番2)

Q:推奨的事項に取り組んでいる場合に、インセンティブはありますか。
A:推奨的事項に関するインセンティブは現在検討中です。

現時点では、推奨事項に関してはとくに影響がないようです。推奨事項は、法令等による義務ではないものが中心となっていますので、東京都としても強制するような扱いは難しいのかもしれません。もっとも、社会的に望ましい方向を目指す内容ではあるため、対応できるのであれば、しておくに越したことはないでしょう。また、法令等の改正によって推奨事項が義務的事項に変わる可能性もありますので、そういった場合に備えておくことも重要と考えられます。

チェックした内容にどこまで責任を負うか

5.義務的事項に対応している証拠資料は必要か(項番8)

Q:チェックリストの提出にあたって根拠資料を提出する必要はありますか。
A:チェックリストは自己申告であるため、チェックリスト提出時点では根拠資料の提出は不要です。ただし、今後設置する通報受付窓口において通報を受け付けた場合は、資料を求める場合があります。

東京都はグリーバンス・メカニズム(苦情処理メカニズム)を整備して、調達指針を順守していない事業者等に関する通報を受け付ける予定です。申請時点では社内方針や研修記録などの根拠資料を提出する必要はありませんが、通報があった場合に資料の提出を求められる可能性があります。適正な取引を心がけていても、取引先とのトラブルによって自社が通報される可能性はあるでしょうから、根拠資料はいつでも提出できるよう整備しておくのが良いと考えられます。

6.後から取組内容を確認されることはあるのか(項番10)

Q:申告した取組内容について、後日確認をすることはありますか。また、その結果東京都が求める水準に満たしていないと判断された場合に、何等か罰則はありますか。
A:今後設置する通報受付窓口において通報を受け付けた場合は、個々に取組内容を確認させていただく場合があります。また、調達指針の不遵守が判明した場合は改善を求めていきますが、適切に改善に取り組んでいる限り、契約解除や指名停止措置を行うことはありません。ただし、重大な不遵守があるにもかかわらず、適切に改善に取り組んでいないと認められる場合は契約解除や指名停止措置を講じることがあります。

この質問は、実際によくいただきます。入札に参加して無事に落札できたのに、契約の段階になって自社の取組みを報告したら東京都から否定され、「やはり契約はナシで」みたいな展開を考えたら、恐ろしくて入札に参加できないですよね。

これに対して東京都としては、悪質な事例でない限りは契約解除や指名停止といった措置は考えていないようです。自社の取組みが東京都の求めるレベルに達していなかったとしても、適切に改善していく意思があれば重大な処分にはつながらないだろうと考えられます。

なお、通報窓口(グリーバンス・メカニズム)に関する運用基準等の詳細は、令和7年1月ごろに公表予定とのことです。

おわりに

適用範囲の拡大など、先が読めない部分もまだまだありますが、今回の定期受付の時点で、できることはやっておくのがよいでしょう。

社会的責任を意識した経営は今後も重要な考え方になると予測されます。当然、企業の規模や業種に応じて取組内容は変わってくるでしょうが、東京都の入札参加をきっかけに、自社にできることを考えてみるのも良いでしょう。

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