「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」令和6年10月末版が発表されました
はじめに
2025年1月末に、厚生労働省から「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」の令和6年10月末版が発表されました。今回の記事では、最新版の概要だけでなく、過去10年の推移を見ていきます。
弊社顧問先の主流である、中小建設業者・製造業者のみなさまを想定した解説となっています。
「外国人雇用状況の届出」とは
外国人の雇入れおよび離職の際に、事業主は「外国人雇用状況届出」をハローワーク(経由で厚生労働大臣)に届け出なければなりません。
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
第28条(外国人雇用状況の届出等)
1 事業主は、新たに外国人を雇い入れた場合又はその雇用する外国人が離職した場合には(略)厚生労働大臣に届け出なければならない。
実務上は、雇用保険の資格取得と喪失の届出を出す際に、「被保険者が外国人の場合のみ記入」とされている欄に在留資格等を記入することで対応できるケースが多いです。
ただし、雇用保険の被保険者とならない外国人に関しても雇用状況の届出は必要ですので、留学生をはじめ雇用保険に入らない人を雇ったときには注意してください。
また、在留資格を変更した場合も、本来であれば届出を行うべきです。しかし、同じ職場で技能実習から特定技能に変更した場合などは雇用保険の手続きが必要ないことから、届出が漏れてしまっている場合も多いようです。
実際に、法務省(出入国在留管理庁)が公表する資料の数字とは、ある程度の差が出ています。
例えば、2024年10月末における、特定技能(1号および2号)の在留者数は、次のとおりです。
厚労省:20.7万人
法務省:27.5万人
*厚生労働省の数字は「制度説明資料 : 外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組(令和7年1月更新)」から
*法務省の数字は「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)」から
法務省の数字は在留資格の変更なども正確に反映しているはずですので、厚生労働省の数字は「参考程度」といえるかもしれません。
それでも、「外国人が日本国内で何人くらい働いているのか」「都道府県ごとの人数はどうなっているのか」「どのような業種で受入れが進んでいるのか」といった情報を確認することができる、とても貴重な資料となっています。
この「外国人雇用状況の届出」については、毎年10月末時点でのデータを翌年1月の最終金曜日に、厚生労働省から「届出状況まとめ」として発表するのが恒例です。2008年からデータが公開されていますので、推移を調べる際などにも重宝します。
外国人雇用状況の届出状況について(報道発表)(厚生労働省)
最新版の概要
それでは、1月末に公表された最新版(令和6年10月版)を確認していきましょう。
まず、日本で働く「外国人労働者数」は約230万人となりました。前年は約205万人でしたので、25万人以上増加しています(対前年増加率12.4%)。
外国人を雇用する事業所数も前年に比べて7.3%増えて、約34万所となりました。
国籍別の人数が多いのは、上からベトナム、中国、フィリピンとなっています。2022年にベトナムが中国を抜いてからは、3位までの順位には変動がありません。
在留資格別の人数については、「専門的・技術的分野の在留資格」が初めて最多となりました。特定技能の増加が影響しているのですが、先述のとおり法務省の資料よりも少なめの数字ですので、実際にはさらに増えている可能性があります。
過去10年の推移
次に、いくつかの指標について、2015年から2014年まで10年間の推移をグラフ化してみましょう。
まずは、外国人労働者数です。
2015年は約91万人でしたので、2.5倍となっています。もっとも、順調に増加してきたわけではなく、2020年に始まったコロナ禍の影響を受けて、2020年から2022年までは伸びが鈍化しています。
続いて、外国人雇用事業所数です。
約15万所から2.3倍ですので労働者数の伸び率には劣るものの、順調に増加してきていることが読み取れます。特定技能の増加に伴って、初めての外国人雇用に踏み出した企業も多かったのではないでしょうか。
さらに、建設業と製造業における外国人労働者数の推移を確認してみます。
人数自体は製造業が建設業の3倍以上となっていますが、過去10年の伸びを比べると、製造業の2.0倍に対して建設業は6.1倍です。建設業においては、技能実習と特定技能を中心に外国人労働者が増加していることがうかがわれます。
最後に、建設業と製造業における在留資格別の割合を、円グラフで確認してみます。
建設業においては、技能実習が60%を占めています。ただし、先述のとおり特定技能へ変更した際に外国人雇用状況届出を提出していない可能性がありますので、実際には特定技能の比率がもう少し高いのかもしれません。
技能実習と特定技能には「現場で労働できる在留資格」という共通点があるので、「技能実習+特定技能」で考えてみます。すると、建設業は71%、製造業は50%となります。
製造業については、エンジニアなどが含まれる「技術・人文知識・国際業務」の割合も比較的高いです。また、伝統的に「定住者*」が多い分野であり、直近データでも製造業全体の6.5%を占めています。
*「その他」に含まれる
おわりに
「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」から、建設業・製造業の分野において、技能実習と特定技能を中心に外国人労働者の雇用が進んでいることが読み取れます。政府が公表している特定技能1号の「受入れ見込数*」から推測すると、今後も増加傾向が続いていく見込みです。
*2024年4月から2029年3月までの5年間の上限:約82万人
また、外国人を雇用する事業所の規模を見ると、30人未満の事業所で雇用される人が全体の36.2%を占めていることから、中小企業において外国人雇用が進んでいることも読み取れます。
今回の記事が中小企業のみなさまにとって、これからますます身近になっていく外国人雇用について考えるきっかけになれば幸いです。