退職金制度の必要性 | 中小企業の退職金制度について考える

はじめに

プレアデスでは、顧問先企業の退職金規程や制度についてのご相談もお受けしています。
制度導入や見直しのきっかけは、創業して数年経って従業員も増えてきて、そろそろ会社の福利厚生を整備していきたいとか、出入りの保険屋さんから生命保険を使った退職金制度を勧められたとか、あとは退職金制度がなかったが故に困ったことが起きたとか。他にも、社会保険料や所得税の上昇に備えて……といった事情があるようです。

今回から、数回の連載形式で、中小企業の退職金について、その必要性と具体的な選択肢、選択肢ごとのメリット・デメリットなどについて検討してみましょう。
(どちらかというと小規模企業向けの内容になります)

そもそも退職金制度はあったほうが良いの?

結論としては「無いより有ったほうが良い」というのが、私共のスタンスです。
理由は簡単で、退職金制度を設けるメリットのほうが、デメリットより多いからです。

では、一般的にいわれている、いくつかのメリットについて見ていきましょう。

①長期勤続を促す効果が期待できる

退職金制度の多くは、長く勤務するほど支給額が大きくなり、長期継続勤務したほうが有利になるように設計されています。逆に言えば、早期離職は損になるので、ある程度の引き留め効果も期待されるでしょう。

②実質所得を大きくできる

月々の賃金も退職金も、どちらも原資は同じく企業の利潤です。ですが、月々の賃金を引き上げれば、基本的にはそれに応じて所得税や社会保険料も上昇しますので、実際に従業員が使えるお金は目減りしてしまいます。一方、退職金については、所得税の退職所得控除があるので、中小企業が支給できる水準であれば、ほぼ無税で受け取ることができます。
要は、10年なり20年なり勤務した期間に企業が従業員に支払う総額のうち、実際に従業員が受け取ることができる「真水」が大きくなるということです。
なお、社会保険料については老齢年金の支給はもちろん、傷病手当金などの給付もあり得ますので、「ただ取られるお金」ということではありません。ここでは一定スパンのキャッシュベースの話としてご理解ください。

③老後の生活保障

こちらも、まあ各自で考えなさいという問題ではありますが、実際問題として、お金はあれば使ってしまうのも常でしょう。ですので、退職しない限り使えないお金をどこかに積み立ててあるというのは、悪い話ではないと思われます。

④採用に有利

企業イメージとしては、やはりきちんとした退職金制度がある企業のほうが有利といえるでしょう。そもそも、退職金はどちらかといえば長期雇用を前提とした制度ですので、安定的に長く勤務してほしいという、企業側のメッセージが伝わりやすいと思います。
退職金がなくても、その分給与水準が高ければ良いのでは? というのは一理ありますが、よほど給与水準が高くなければ、求職者には伝わらないでしょう。

次いで、私共の経験から考えられるメリットも挙げてみます。

⑤返済原資になる

企業が従業員にお金を貸すことは、ままあります。一般的には本人や家族の病気や、ケガやトラブルといった理由で一時的に物入りだったり、あるいは転居費用、車を買うなんてケースもあります。
大抵の場合、月々の給与から控除(もちろん本人の同意を得て)する形で返済をしていただきますが、何らかの理由で退職する場合には、一括返済していただかなくてはなりません。
一括返済ができずに退職後も貸付金が残ってしまうと、どんな約定があったとしても企業側にはリスクが残ります。また、労働基準法第17条で「前借金相殺の禁止」が定められてはいるものの、従業員側の心理として、債務があるために退職できず困ってしまうこともあるかもしれません。
その際、退職金があれば、企業からお金を借りている従業員にとって返済原資になります。
さらに、少ないケースではありますが、横領などの犯罪行為を行い懲戒解雇した従業員に対して、損害賠償をさせる原資にもなります。

⑥退職をめぐるトラブル対策になる

残念ながら退職をめぐるトラブルが生じた場合、退職時にある程度のまとまったお金を支払えるかどうかは、円満な解決のための大きなポイントになります。なぜなら、従業員にしてみれば、当座の生活に困らないお金があるかどうかという点は非常に重要であり、会社に対する態度にも影響するからです。
退職といっても、解雇のような明確なものから、退職勧奨、形式的には自己都合であっても実質会社都合に近いものなど、様々なケースがあります。純粋な自己都合ならともかく、何らかの問題がある場合にはトラブルに発展してしまうこともあり、そのときには、やはり「お金」の存在は大きいといわざるを得ません。

退職金制度のデメリットは?

では、退職金制度によるデメリットはあるのでしょうか。
先に述べたとおり、賃金も退職金もその原資は企業の利潤ですので、理屈上、退職金制度を導入すると賃金の昇給に回せるお金がその分だけ減ることになります。

従って、そもそも長期雇用を期待しておらず、一定のサイクルで従業員が入れ替わっていくことが前提の企業には向きません。
その期の利益は、その期に従業員に分配するという経営方針はありですし、大きな有名企業でも退職金制度を廃止するケースも増えているようです。

おわりに

退職金制度のデメリットとして、昇給の原資が減ってしまう点を挙げました。しかし、業種、業態にもよりますが、中小企業、特に小規模企業では、そもそも利潤自体が少ないので、その期に分配といっても目に見えるような大きな分配はできません。

やはり、少なくてもコツコツと用意して、それなりにまとまった退職金を支払えるよう頑張るのが、小さな会社ではオーソドックスな方法と思います。

今回は以上です。次回からは、代表的な退職金制度の特徴について解説してみます。

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