【図解】フリーランス新法 −発注企業向け(2025年1月版)
はじめに
2024年1月に、フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)に関する解説記事を公開しました。当時はまだ法施行前であり、政省令の内容も明らかになっていなかったため、公布済みの新法の条文に沿った解説となっていました。
2024年11月1日にフリーランス新法が施行され、政府によるパンフレットやQ&Aなどの資料も充実してきました。今回の記事では、最新情報も踏まえて解説していきます。前回と重複する部分もありますが、図を用いつつ、ポイントを絞って進めていきます。
*当事務所のお客様に中小企業が多いことから、フリーランスに発注する事業者に向けた解説となっています。
フリーランス新法の概要
フリーランス新法の概要をなるべくシンプルに説明すると、次のようになるのではないでしょうか。
- フリーランスに対して
- 発注(業務委託)する事業者が
- 適正な取引と就業環境の整備をしなければならない
事業者間で適正な取引を実施するのは当然のことですが、発注者に雇用される労働者のような立場にあるフリーランスに対して、発注者による就業環境の整備も求められています。裏を返すと、発注者はフリーランスの就業環境を害さないように注意しなければならない、ということです。
では、それぞれの用語について確認していきましょう。
フリーランスとは
法律上は、経営主体である事業者を指す「特定受託事業者」とフリーランス本人を指す「特定受託業務従事者」という用語があります。もっとも、実務上は厳格に区別する必要はないでしょう。
法人化しているかどうかに関係なく、従業員を雇わずに一人で事業を行っている人が「フリーランス」だと考えてください。「従業員」の定義は雇用保険の被保険者とほぼ同様で、「1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者」となっています。
発注者とは
「業務委託事業者」と「特定業務委託事業者」という用語で定義されています。業務委託事業者にはフリーランスも含まれますが、「特定」にはフリーランスが含まれません。「特定」は「フリーランス」の裏返しであり、従業員を雇っている、または従業員はいなくても複数の役員で経営している、「組織」形態の事業者を指します。
こちらも、実務で使用する用語ではないでしょう。組織からフリーランスに発注する際には、フリーランス同士の取引よりも厳格な条件が求められる、と考えておけばよいのではないでしょうか。または、フリーランスからフリーランスに発注する場合は一部の義務だけが求められている、という考え方でもよいかと思われます。
業務委託とは
事業者が、その事業のために、他の事業者に次のいずれかを委託することを指します。
- 物品の製造・加工
- 情報成果物の作成
- 役務の提供
1は、製造業での取引だけでなく、建設工事の請負も対象となっています。
2の情報成果物には、ソフトウェアはもちろん、映像・音楽や原稿、そしてデザインなども含まれます。
3は、運送や演奏、そしてコンサルタントや営業の代行などが代表例として示されています。
なお、物品の「修理」は3の「役務」に含まれますが、そのあたりも厳密に区別する必要はないでしょう。
義務と禁止行為
概要で説明したとおり、フリーランスに業務委託する事業者は、「取引の適正化」と「就業環境の整備」を実施しなければいけません。具体的には、次の7点になります。
取引条件の明示
フリーランスに業務委託した際には、直ちに、書面または電磁的方法で、取引条件を明示しなければなりません。この取引条件の明示だけは、フリーランスからフリーランスへ発注する場合でも義務となっています。
明示すべき事項は、次の8点です。
- 発注者および受注者の名称
- 業務委託をした日
- 給付・役務の内容
- 給付等を受ける期日
- 給付等を受ける場所
- 検査完了の期日(検査するなら)
- 報酬額および支払期日
- 支払方法 (現金以外なら)
発注書等のひな形を見直して、上記8点が押さえられているかどうか確認しておきましょう。
期日における報酬支払
発注した成果物等を受領した日から起算して、60日以内でなるべく早い支払期日を定めて、その期日までに報酬を支払わなければなりません。
この決まりに反して60日を超える期日を定めた場合は、60日を経過する日が支払期日となります。また、期日を定めなかった場合は、受領日が支払期日となるので注意してください。
なお、再委託の場合は、元委託者からの支払期日から30日以内で(できる限り早く)支払期日を定めることができます。その場合は、取引条件の明示事項に次の3点を追加する必要があります。
- 再委託である旨
- 元委託者の名称
- 元委託業務の対価の支払期日
募集情報の的確表示
広告等によりフリーランスを募集する場合に、守らなければならない義務です。募集情報について、虚偽または誤解を生じさせるような表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければなりません。
ハラスメント対策
フリーランスに対して、セクハラ・マタハラ・パワハラ等が行われないよう、相談対応のための体制整備等が求められます。また、ハラスメントに関する相談をしたフリーランスに対して、相談したことを理由とする不利益な取扱いをしてはなりません。
男女雇用機会均等法等によって、職場における上記ハラスメントの防止措置を講じることが、事業主の義務となっています。すでに設置されている相談窓口をフリーランスも利用できるようにするのも、一つの対策方法とされています。
なお、ハラスメント対策に関する情報については、次のウェブサイトをご参照ください。
あかるい職場応援団(厚生労働省)
7つの禁止行為
こちらは、「1か月以上の業務委託をしている場合」という条件があります。ただし、「契約締結日から受領予定日まで」が代表的な業務委託の期間となりますので、該当しない事例のほうが少ないかもしれません。
1か月以上の業務委託をしている事業者には、次の7つの禁止行為が定められています。
- 受領拒否
- 報酬減額
- 返品
- 買いたたき
- 指定商品・サービスの購入・利用の強制
- 不当な財産・役務等の提供要請
- 不当な内容変更・やり直し
育児・介護等への配慮
ここから先は、「6か月以上の業務委託をしている場合」という条件が付きます。契約期間が長く、自社の労働者と似たような立場にあるフリーランスを保護するための義務です。
フリーランスからの申出に応じて、育児や介護等への配慮をしなければなりません。例えば、育児との両立を図るためにテレワークを希望する申出があった場合などに、申出内容を把握して取り得る選択肢を検討します。
そして、希望に添った取組を実施できる場合は、内容を伝達して実施します。
実施できない場合は、その旨を伝達して理由を説明します。
なお、6か月未満の業務委託の場合は、育児や介護等への配慮が努力義務となっています。
解除・不更新等の予告
契約の解除または不更新をしようとする場合に、解除日または契約満了日から30日前までに、その旨を予告しなければなりません。また、フリーランスが解除等の理由を聞いてきた場合には、遅滞なく説明しなければなりません。
なお、元委託事業者の都合で即時解除が必要な場合や、フリーランス側に問題があって解除する場合などは、例外的に予告が不要となります。
また、第三者の利益を害する場合や他の法律に違反する場合は、例外的に理由の説明も不要となります。
まとめ(図解)
今回の記事で説明してきた、主な用語を図にまとめてみます。フリーランス新法を1枚のスライドで説明するのであれば、このような形になるのではないでしょうか。
おわりに
新法では、具体的な義務と禁止行為が注目されがちです。もちろん、法令を順守することは重要ですが、法令さえ守っていればよい、ということでもないでしょう。
例えば、支払期日を受領から60日以内で定めていれば、法違反にはなりません。ですが、売上が生活費に直結するフリーランスの立場からすれば、なるべく早く払ってもらったほうがありがたいはずです。
また、取引相手がフリーランスでないからといって、新法で定める禁止行為やハラスメントが許されるわけではありません。
事業者間の取引に関する最低限のルールとして、フリーランス新法を見直してみてもよいのではないでしょうか。
もちろん、建設業法における下請代金の支払など、業種によっては他の法律も順守する必要があります。従来からのルールを守りつつ、取引相手がいわゆる一人親方の場合には、フリーランス新法も守らなければならない、というイメージです。
建設業法
第24条の三(下請代金の支払)
1 元請負人は、請負代金の出来形部分に対する支払又は工事完成後における支払を受けたときは、当該支払の対象となつた建設工事を施工した下請負人に対して、当該元請負人が支払を受けた金額の出来形に対する割合及び当該下請負人が施工した出来形部分に相応する下請代金を、当該支払を受けた日から一月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければならない。
2 前項の場合において、元請負人は、同項に規定する下請代金のうち労務費に相当する部分については、現金で支払うよう適切な配慮をしなければならない。
3 元請負人は、前払金の支払を受けたときは、下請負人に対して、資材の購入、労働者の募集その他建設工事の着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければならない。
今回は、フリーランス新法について、発注者側の方々に向けて解説してみました。さらに詳しく知りたい方は、厚生労働省のウェブサイトをご参照ください。
フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ(厚生労働省)